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第15話 漢方薬の名前の由来

 漢方薬を難しく感じる一つの要因に、漢字表記の名称がある。例えば、「大承気湯」「大建中湯」「温清飲」「補中益気湯」「啓脾湯」「温経湯」「滋陰降火湯」など、一見すると理解が難しい名称が並ぶ。

 西洋薬は「アセトアミノフェン」などカタカナで表記される。難なく読めるし、とっつきも良さそうだ。では、漢方薬を「ジュンチョウトウ」などとカタカナ表記するとどうだろう。確かに読みやすいかもしれないが、西洋薬のように専門家でなければ、中身を理解できなくなる。

 「ジュンチョウトウ」は「潤腸湯」と書く。この表記から腸を潤す薬とわかる。「湯」とは煎じて飲む薬の意味。老人に多い固くコロコロした便秘に使われる。このように漢字表記だからこそ日本人は漢方薬の働きを理解できると言える。

 ちなみに西洋薬の名称は、原料名と商品名の2種類がある。「アセトアミノフェンは原料名で、商品名は「カロナール」などと呼ばれる解熱鎮痛剤。漢方薬は、一般に創作時から変わらず同じ名称が使われ、一部商品名で販売されるものもある。

 漢方薬の命名法にはいくつか特徴がある。

 ①重要な働きをする構成生薬による命名。葛根湯は、葛根が重要な働きをするところからの命名である。

 ②「潤腸湯」のように方剤の働き方による命名。例えば、肺の熱を冷ます(清)ことから命名された「清肺湯」などがある。

 ③方剤が適応される病気からの命名。「治打撲一方」は、字のごとく打撲の改善に使う。

 ④中国思想による命名。例えば「小青竜湯」は東方と春の神である青竜から命名された。

 ⑤構成生薬の数による命名。八つの生薬から構成される「八味丸」や「六味丸」「五苓散」など。

 漢方薬の名称には、その薬を理解するための秘密が隠されている。6月29日に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開かれる第65回日本東洋医学会学術総会の市民公開講座(毎日新聞社後援)で、その秘密を披露することになった。


三浦於莵


~2014年5月29日毎日新聞より転載~



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