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第13話 漢方の目印は「湯」「丸」「散」

 入学シーズン。難関を勝ち抜いた受験生に敬意を表し、今回はクイズ形式で。第1問。○糸、○一本、○薬。○に入る共通の漢字は?

 答えは「生」。生糸は織る前の糸、生一本は混じりけのない酒。生薬(きぐすりとも読む)とは、漢方薬物のことだ。基本的に1種類の化学成分からなる西洋薬に対し、生薬には非常に多くの化学成分が含まれており、有効性が未解明な成分も多い。「生」の原義は「地上に出た芽」で、生まれながらの、混じり気のない、未加工、などの意味がある。

 生薬は明治以前は「本草」と呼ばれ、薬として使用される以前の植物などを指していた。それが明治時代から生薬と呼ばれ始めたのである。当時は有効成分抽出の研究が開始された時期であり、近代薬学への期待が込められたのかもしれない。実際、現在の西洋薬の約6割は自然界由来という。

 第2問。○正、○身、○行、そして○治。○に入る漢字は?

 答えは「修」。正しくすることが修正、人としてふさわしい状態にするのが修身、立派な人になるための行いを修行と呼ぶ。「修治」とは、採取した生薬にほどこす前処置のことだ。洗う、乾燥させる、細くする、時にはあぶったりする。「修」は、形をととのえる、良好にするなどの意味で、東洋医学では治療可能な状態にする処理をいう。

 第3問。○理、○刑、そして○方。○に入る漢字は?

 答えは「処」。元の意味は獣が腰掛けに座る事で、しかるべく決める(処理)、始末する(処刑)などの意味となった。漢方治療では、2種類以上の生薬合わせて使う。組み合わされた生薬群を方剤と呼ぶ。例えば葛根湯は、葛根、麻黄、桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草の7種類の生薬からなる方剤だ。そして、どの方剤が治療にふさわしいかを決めることを処方という。

 中国で漢方薬と思い込み西洋薬を購入したという患者さんがいた。中国では西洋薬の名前も漢字で書かれているため勘違いしやすいのだ。漢方方剤の名前は、葛根湯、八味丸、五苓散のように、最後に「湯」「丸」「散」などが付く。これを確認すれば、間違えずに済む。


三浦於莵


~2014年4月3日毎日新聞より転載~





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