

第11話 季節によって変わる花粉症薬
特定の季節に起こる代表的な病気といえば花粉症だ。私の調査では、多くは立春前の1月下旬から3月上旬まで続く。まさに暦の春の訪れとともに発生する病気と言える。 ちなみに「立」という字は「すぐに、たちどころに起こる」という意味で、立春は春の始まりを指す。歯痛にすぐ効果が出ることから命名された漢方薬は「立効散」。マージャンのリーチは「立直」と書き、「すぐに上がるよ」という宣言である。 「春は名のみの風の寒さや」と歌われるように、立春のころはまだ寒く、徐々に暖かくなる。東洋医学では、病気は自然現象の影響を受けやすいと考える。花粉症も発症時期によって異なるタイプが出現するため、使う薬も変えるのが普通だ。 一つは、1月下旬~2月中旬に最も多くなるタイプ。午前や早朝など寒い時間に悪化し、風呂などで温めると軽くなる。冷え性や、風邪を引きやすい、胃弱などの人に多い。この花粉症は寒さの影響による「寒性」といえ、小青竜湯、麻黄附子細辛湯など、体を温めて鼻水を和らげる薬を使う。青竜とは春をつかさどる神、竜は水の神。つまり鼻水など体内の冷たい水分を温かさで和らげるわけだ。麻


第10話 「おとそ」は養生法の原則
「おとそ気分」とは、正月のうきうきした気分を表す常套句だ。おとそは正月に飲むお酒と思っている人も多いが、屠蘇散という漢方薬を大みそかに清酒に浸しておき、元旦の朝、雑煮を祝う前にその年の健康長寿、来福を祈って飲むのが伝統的な正月行事だ。 おとそを飲むことで正月となり、数えで一つ年をとる。年少者は早く、年長者はゆっくりと年をとらせようとの配慮から、年少者から順に飲む。平安時代に中国から伝来した行事だが、現在の中国ではすれた。 屠蘇散は、漢方薬の防風と桔梗、体を温め消化機能を高める白朮と山椒、体を温める肉桂、下剤の大黄などの漢方薬を粉末にしたもので、冬季の健康増進に適した薬といえる。 名称の由来には諸説あるが、私は東洋医学の治療と養生法の原則を端的に表現した言葉と考えたい。東洋医学では、病気は有害物(邪)、あるいは生命力抵抗力の低下で発生する。とすれば、病気をもたらす有害物を屠り、つまり取り除き、生命力抵抗力を蘇らせることが治療の原則となる。 貝原益軒の「養生訓」には、「元気を保つ道、二あり。まづ元気を害するものを去り、又元気を養ふべし」とある。健康を