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第4話 万引きの薬にも使われた半夏

早いもので、一年も半分が過ぎた。

時の流れを視覚で感じさせてくれる植物にドクダミ科の半化粧(ハンゲショウ)がある。

まさに今ごろ(7月上旬)、上部の三枚の葉が白粉をぬったように半分程度白くなる様子からの名称であり、三白草(ミツジログサ)、オシロイカケ、片白草(カタシロクサ)などとも呼ばれる。白くなるのは、虫を呼び込むためという。

ところで、7月2日~6日は、七十二候「半夏生(はんげしょう)」。

この名称の由来となった半夏は、カラスビシャクという草で、立夏と立秋の真ん中、つまり夏が半分過ぎたころに最も成長する。

冒頭の半化粧とは異なる植物であるが、白く装う時期が半夏生と重なることから、半化粧は「半夏生」とも書かれる。偶然の妙である。

 半夏の球根は漢方薬となるが、江戸時代に万引きの治療として使用された話が伝わっている。息子の悪癖を治したい相談にきた商人に、漢方医が与えたのがこの半夏。そして万引きはピタリとやんだという。信じがたい話だが、からくりはこうだ。

半夏はを生のままで服用すると、のどがチクチクして名状しがたい嫌悪感を催す。中に含まれるシュウ酸化カルシウムのとがった結晶がのどを刺激するのだ。漢方医は半夏のこの副作用をうまく利用した。息子は、与えられた半夏を生で飲み、嫌悪感で万引きどころではなくなったというわけ。ちなみに煎じて飲むと、この副作用は出現しない。

 咽喉頭異常感症という病気がある。ストレスなどによって、のどに何かがつまったような違和感を覚えるもので、臨床的にはよく見られる。患者さんは「がんではないか」と心配して耳鼻科を訪れること多いが、西洋医学では特効薬はない。

 東洋医学ではこの病気は「梅核気(梅の種がつまった感じ)」と呼ばれ、古くから知られていた。この症状には、半夏を多く含む「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」が効く。梅核気の症状は、半夏を生で食べた時と同じような症状と言えなくもない。もしかすると、古代の漢方医が、機転を利かせて梅核気治療に用いたのではないか。

 梅雨の盛り、半化粧は雨に打たれても白い装いを落とさない。一方、半夏の球根は梅雨のころに採取される。半化粧は人にみられることで、半夏は薬として重宝されることで、それぞれけなげに生き抜こうとしているように思える。自然はたくましい。

〜平成25年7月4日・毎日新聞コラムに掲載されたものである〜

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