第12話 桃の力で再生

 3月3日は桃の節句。子供の頃、甘い白酒にちょっと大人の気分を味わったものだ。中国で桃はめでたい果物とされ、この考えは古くより日本にもたらされた。3~4世紀の纒向遺跡では、祭事に使われたと思われる大量の桃の種が出土した。

 日本の神話にも桃が登場する。イザナギ(男神)とともに日本を生み出したイザナミ(女神)は、最後に産んだ火の神のため、黄泉の国へ旅立つ。悲しんだイザナギが黄泉の国へ向かうと、そこには変わり果てたイザナミが。驚いて地上に戻ろうとするイザナギ。黄泉の国に引き戻そうと黄泉の国の雷神が後を追うが、イザナギは桃の実を投げて追い払うことができた。桃によって生命が再生したという神話である。

 桃という字に入っている「兆」は、中国・殷の時代に吉凶を占うため、火ばしでつけられた亀の甲羅などのひび割れを表す。ここから二つに割れるきざし(前兆)、物事の起こり始め(兆候)などの意味が生まれた。桃の表面には割れ目があり、何かが生み出されるという期待からの「吉兆」、そして新たな生命を生み出す「女性」を象徴する果実となり、女性をたたえる行事が「桃の節句」となったと思われる。桃花が中国で美人や恋愛を表すことになったのも、ここから来ているのだろう。

 桃の種は「桃仁」と呼ばれ重要な漢方薬だ。「仁」は種の中身。東洋医学では、血液の巡りが悪くなった状態をお血といい、女性によく見られる。桃仁はこのお血を改善する代表的な薬だ。桃核承気湯は桃仁が主役の漢方薬で、のぼせやイライラ、便秘、頭痛、月経痛などが出現した体力がある女性によく使用される。

 49歳の女性が、頭痛とのぼせ、便秘、いらいらで 来院した。顔は赤く、くちびるは紫色、左の下腹部を押さえると痛がり、足の皮膚に暗紅色の血管(細絡)が見られた。東洋医学的にはお血と考えられ、桃核承気湯の服用で症状は改善した。

 これからは典型的な更年期障害の症状だ。ちなみに「更」という字には「あらためる」「良いものにかえる(更生)」との意味がある。更年期障害とは、新しい自分を生み出すための苦しみともいえよう。桃仁はその手助けをしたのかもしれない。


三浦於菟

~2014年2月27日毎日新聞より転載~






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