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第7話 生命力低下した「虚証」

 病気はどうやって起こるか。東洋医学の考え方に基づき、車のエンジンに例えながらみてみたい。

 まずエンジンそのものが壊れた場合。人間では生命力・抵抗力が低下した状態だ。そして、車が水に浸かった時のように、壊れてはいないが一時的に動かなくなった場合。元気な人がひく風邪がこれにあたる。

 東洋医学では前者を「虚証」、後者を「実証」と呼ぶ。最も基本的で重要な病気の姿(証)であり、病人には必ずどちらか、あるいは両方が見られる。このように、病気の原因と病態を簡潔明瞭かつ全身から考えるところが、西洋医学にはない東洋医学の特徴であり優れた点と言える。

 虚証から説明しよう。「虚」は、住居のくぼんだ跡(廃墟)が原義で、「空っぽ、うつろ、むなしい」という意味。本来あった生命力が低下した状態がこれにあたる。セミの抜け殻で、はかないものの例えに使われる「空蝉」は「虚蝉」とも書くが、命が抜け去ったわびしさが感じられる後者の方が、ふさわしい気がする。

 虚証の症状は、疲れやすい、食欲不振、風邪をひきやすい、息が切れる、声がか細い一一など。そのほか汗をかきやすい、下痢しやすい、痛いところや不快な部分をなでられると気持ち良く感じる、というのも虚証の一例だ。

 「10代の頃から胃弱」という30代の女性が受診した。竹久夢二の絵のように、色白でなで肩のきゃしゃな体格である。食欲不振、下痢ぎみで疲れがひどく、3年間で体重が4 キロ も減ったと、か細く沈んだ声で訴えた。消化吸収力が低下したために生命力が弱まった虚証の典型だ。六君子湯を服用するうちに、胃腸症状や疲れがおさまり、体重も5キロ 増えた。六君子湯は消化機能を高める代表的な漢方薬で、君子のように穏やかな効果を発揮するところからこう呼ばれる。

 私の郷里、山梨県には「ひいくら100年」という言葉がある。体が弱くヒーヒー言いながらも長生きするという意味だ。虚証も似ている。軽自動車のように、馬力は弱くても走り続けることは十分可能で、短命ということではない。「実証」については次回に。


三浦於莵 ~2013年10月3日毎日新聞より転載~




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