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第5話 暑さで体を壊さないように

 「夏月もっとも保養すべし」。貝原益軒は『養生訓』の中で、こう注意をうながしている。夏には、暑さ、湿気、胃腸の病気が特に多いからだ。

 夏の語源は「アツ」だという。夏の病気の代表といえば熱中症。これは西洋医学の病名で、東洋医学では中暑と呼ぶ。暑さに中(あた)る病気、というわけだ。治療には白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)がよく使われる。白虎とは秋をもたらす神の名。この薬には、石こうが使われる。石こうはギプスなどでおなじみの鉱物だが、薬としては熱を冷ます働きがある。つまり白虎加人参湯は、暑さでほてった体を秋のようにさわやかにしてくれる。ほてり、発汗、口の渇き、頭痛といった熱中症特有の症状が出た時のみならず、水に溶かして少しずつ飲むと、熱中症予防にもなる。

 夏に多い食中毒や食あたりは下痢がつきものだ。下痢は、外の湿気、つまり水分が多くなった病気と考えられている。治療には、五苓散(ごれいさん)がよく使われる。茯苓と猪苓など五つの生薬の総称で、これらが体の湿気を吸収し、下痢を止める。江戸時代の旅にもよく携行された。

 暑さが続けば、夏バテ、夏ヤセにつながる。体はほてり、発汗し、のどが乾き、胃腸の機能が落ちて食欲不振となり、やがてやせてくる。東洋医学では、疰夏(しゅか)という。「主」はろうそくを意味する。火をつけると熱せられてやせ細っていく状態から連想された名称だろう。この場合には、清暑益気湯がいい。夏の暑さを清水のようにさわやかに冷やし、胃腸の働きを高めて元気を付ける(益気)薬だ。

 人は自然の影響から逃れる事はできない。特に胃腸の弱い人やお年寄りは、暑さの影響を受けやすい。とすれば、自然を知り、己を知り、自己調節する事で、自然との共存をはかる。これが東洋医学の教えである。体に働きかける漢方薬をうまく活用したいものだ。

もう一つ、現代特有の夏の病気がある。クーラーによる冷えだ。体が夏向きになっているため、クーラーで冷えすぎてしまう。人間を守るべき科学技術が、逆に人に害を及ぼしているわけで、体を温める漢方薬で予防できることも多い。「暑いときこそ温めよ」、まさに逆説的治療である。

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