第14話 四つの役割に分かれる「方剤」

 さまざまな人々が、さまざまな仕事をして社会が維持されていく。複数の生薬を配合した漢方薬の「方剤」も同様だ。方剤を構成する生薬は、▷君薬▷臣薬▷佐薬▷使薬と呼ばれる四つの役割に分かれる。それぞれの役割を、肺の内部が乾燥し、空咳や痰切れが悪い咳などに使う麦門冬湯を例に紹介してみたい。

 「方剤」の働きを決定するリーダー的役目を担う重要な漢方薬が君薬。主薬ともいう。君薬は麦門冬(ジャノヒゲ)。肺を潤して咳を止める作用があり、麦門冬湯の適用症状(証)にほぼ対応する。人参湯や葛根湯など君薬の名称がついた漢方方剤も多い。君薬から、その方剤の働きを推測できるわけだ。

 君薬の効果を強める役割が臣薬。「臣」とは大臣の意味で、リーダーの考え方に共鳴し、もり立てていく良き協力者といえる。そこで補薬ともいう。人参(オタネニンジン)・こう米(コメ)・大棗(ナツメ)が臣薬で、共に体を潤し、胃腸機能を高め、元気にする働きがある。麦門冬湯の潤す働きを助け、咳による体力消耗を防ぐというわけだ。

 君薬・臣薬とは性質や働きが異なり、特異的な働きをするのが佐薬。「佐」とは、左脇から右手を助けるという意味。半夏(カラスビシャク)が佐薬で、君薬・臣薬とは逆に乾燥させる作用があり、君薬・臣薬の潤し過ぎを防ぐ。副作用の防止が佐薬の一つの役割だ。固まった痰を乾燥させ除く働きもあり、呼吸がスムーズになる。汁粉に塩を加えるような隠し味的な作用ともいえる。佐薬の役割は、君薬・臣薬の暴走を防ぎ、その働きを引き立てること。「影の協力者」といえる。性質や働きが異なるからこそその役割である。

 使薬はムードメーカーのように、全体を和ませる作用がある。甘草がこの役目である。

 最近の医学教育に「チュートリアル授業」がある。無作為に選ばれたグループに症例が提示され、これを自己学習して討論するという授業だ。回を重ねるうち、グループの中で司会者、問題提起者、まとめ役など役割が自然発生して効率的になっていく。この効率性が「早く帰宅したい」という願望の結果とは思いたくないところではあるが。


三浦於莵


~2014年5月1日毎日新聞より転載~





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